garamanのマジック研究室

Hofzinser Ace Problem

マジシャンは、まず4枚のエースを取り出し、テーブルに置きます。残りのデックから、あなたは一枚のカードを選び、覚えたらデックに戻します。テーブルには4枚のエース、残りのデックにはあなたが覚えたカードがある状態です。マジシャンがテーブルの4枚のエースを取り上げ、表向きに広げると一枚だけ裏向きになっているカードがあります。そのマークは、残りの3枚のマークから判断して、どうやらあなたが選んだカードと同じマークのようです。続いて残りのデックも表向きにしてテーブルに広げますが、こちらにも一枚だけ裏向きのカードがあります。他の表向きのカードの中に、あなたが覚えたカードは見えませんので、どうやら裏向きのカードはあなたが選んだカードのようです。

あなたが選んだカードがデックの中で裏向きになった奇跡。そして、4枚のエースのうち、あなたが選んだカードと同じマークのエースだけが裏向きになった奇跡。その2つの奇跡を確かめるべく、デックの中の裏向きの一枚を表向きにすると、、、予想に反して、あなたが選んだカードと同じマークのエースです。それでは、と、4枚のエースの中で裏向きになっている一枚を表向きにすると、これこそあなたが選んだカードです。2枚の裏向きのカードが入れ替わるという3つ目の奇跡が起こっています。

世界中で改案が発表され続けている、人気の高いテーマです。が、、、ホフジンサーのアイディアではない、というのがほぼ確実視されています。それでも、この創作意欲を掻き立てるアイディアは、すでに「ホフジンサー・エース・プロブレム」として普及してしまいましたので、今後もそう呼ばれ続けていくのではないかと思います。


The Hofzinser's Problem

ファット・ブラザーズ 第1巻 日本語字幕版
演技 : Disk1 / Title3 / Chapter5
解説 : Disk2 / Title5 / Chapter2

マジックキャッスルで、クリスチャン・エングブルームがショーを行っている時、その控え室でミゲル・アンヘル・ヘアーが「もっと良いものを見せてあげるよ」と、こっそり「ホフジンサー・エース・プロブレム」を披露してくれます。

見た目はスッキリしています。まず4枚のエースを取り出してテーブルに置きます。続けて観客に一枚のカードを選んでもらったらデックに戻して、テーブルの、先ほどのエースからは離れた位置に置きます。4枚のエースを取り上げたら、ちょっとおまじないをかけて、ファンに開きます。すると観客が選んだカードと同じマークのエースだけが裏向きになっています。しかし、この裏向きのカードをひっくり返すと、なんと観客のカードになっています。離れた位置に置いてあったデックを拾い上げてファンに開くと、裏向きのデックの中に一枚だけ表向きのカードがあり、先ほど消えたエースなのです。

時間にして50秒ほどの、スッキリした作品です。もちろん、Disk2 ではその解説もしてくれます。(2016.04.24)

Hofzinsers Aces

インスクリュータブル:レッド 日本語字幕版
演技 : Title7 / Chapter18
解説 : Title7 / Chapter19

ジョセフ・バリーの改案です。独自のエース・プロダクションを盛り込み、アクロバティックな要素を加えた作品です。

観客に一枚選んでもらい(クラブの5とします)、デックに戻してシャッフルしたあと、4枚のAをフラリッシュ的な動きで取り出します。その4枚のAをテーブルの四隅に裏向きに置き、観客にどれか一つを押さえてもらいます。押さえられなかったカードを表向きにすると、それぞれダイヤ・スペード・ハートのA。観客が押さえているのはクラブであることがわかります。「あなたが選んだカードはクラブでしたか?」と聞くと、その通りだと返ってきます。観客は自分で選んだカードと同じマークのエースを、自分の意思で押さえたことになります。これが一つ目の驚き。残りのデックをテーブルに表向きにスプレッドすると、一枚だけ裏向きのカードがあります。それをゆっくりと表向きにひっくり返すと、それは最初に観客が選んだクラブの5。。。ではなく、クラブのAです。2つ目の驚きと大きな矛盾。クラブのAは観客が途中から自分の手で押さえていたはずですが、手をどけるといつの間にかクラブの5に変わっています。これが3つ目の驚きです。

原理はシンプル。高度な技法を使用するわけでもありませんので、技術的な難易度は低いほうかもしれません。ただし、観客とのやりとりをしながら臨機応変に対応する必要がありますので、場馴れしていないと期待する反応は得られないでしょう。少しでも考えているような様子を見せてしまうと、効果が半減しますので、練習が必要です。(2016.05.01)

ホフジンザーの迷路 〜 Hofzinser Probrem 〜

舶来 カード奇術 あ・ら・カルト
p.35

バリー・ネルソンの手順を元にした、荒木一郎氏の改案です。

他の改案との明確な違いは、4枚のAのうち1枚だけが裏向きになっている状態の時にあります。他の多くの作品では、3枚のAが見えているので、残りの裏向きのカードは観客が選んだのと同じマークのAだと「推測」させる構成です。それに対してこの作品では、1枚だけが裏向きになっている4枚のAをファンの状態のままひっくり返し、裏向きになったカードが確かに観客と同じマークのAであることを見せます。つまり、観客が選んだカードと同じマークのAが「裏返った(らしい)」という現象ではなく、はっきりと「裏返った」と言い切れる現象になっているのです。ちょっとした差ですが、一つひとつの現象が分かりやすくなってる点で優れていると言えます。

冒頭の2ページで、ホフジンサー・プロブレムに関する歴史的な背景などが語られます。手順については、その後の12ページにわたって、なんと33枚もの写真を添えて詳細に解説されています。さほど難しいテクニックは使われませんが、ギルティーな手つきになりやすい技法を長時間維持するという難しさはあります。力の抜けた、流れるような動作で演じられるように練習が必要です。(2016.05.15)

失われたエースの謎 〜 Lost Ace Probrem 〜

テクニカルなカードマジック講座
p.111

荒木一郎氏の改案です。前述の「ホフジンサーの迷路」と同様、観客が選んだのと同じマークのAだけが裏向きになった状態の4枚のAを、ファンに広げて裏表を見せられるようになっており、見ている観客にとってはわかりやすい現象になっています。それに伴って、Aを1枚ずつ確認していくステップでは、あまり見かけない動きで確認していく動作になっており、これを不自然と見なすなら、一長一短のある作品です。動きの不自然さをカバーできるようなセリフやキャラクターを持った方になら、オススメの作品です。

8枚のイラストを添えた、4ページほどの比較的シンプルな解説ですが、理解には充分です。それだけシンプルな方法で実現されています。見る側も演じる側も負担の少ない作品ではないでしょうか。(2016.05.22)

Shades of Hofzinser

パスト・ミッドナイト第1巻:カード・マジック 日本語字幕版
演技 : Title5 / Chapter11
解説 : Title5 / Chapter12

ベンジャミン・アールのスタイリッシュな改案です。経験豊富なマジシャンでも一度見ただけでやり方を見抜くのは難しいでしょう。大まかな手順はこうです。スプレッドしたデックから1枚のカードを選んでもらったら、デックに戻してシャッフルします。シャッフルしたデックから4枚のAを取り出しますが、そこはフラリッシュ的な技法で、一瞬で4枚を取り出してみせます。手に持っている4枚のAの裏表を確認したら、先ほど覚えたカードのマークを聞きます。そのマーク以外のAを3枚テーブルに表向きに放り出し、残ったAを表向きにすると、観客が覚えたカードそのものになっています。

4枚のAを取り出すフラリッシュ的な部分で、かなり技法を感じさせてしまうので、観客が覚えたカードも当然テクニックでどこかにコントロールしていると感じさせてしまいます。通常はこれがデメリットになるため、演技中にはあまりフラリッシュの要素を含めないようにしているマジシャンも多いです。しかし、この手順では4枚のAを取り出すときの手の動きが洗練されているのに対して、他の場面が対比的に技法を感じさせないように工夫されています。例えば4枚のAの裏表を見せる場面では、左右の掌を開いて2枚ずつのカードが乗っているだけという見せ方をしますし、観客のマーク以外の3枚のAをテープルに置くときには、軽く放り投げるようにしています。そういう見せ方をしているため、フラリッシュを取り入れる事で、逆に肝心の部分では技法を感じさせないような構成になっています。(2016.06.05)

The Knowledgeable Cards

ロベルト・ジョビーのカード・カレッジ5
p.168

ロベルト・ジョビーのスマートな改案です。4枚のAを除いた48枚のデックから観客に1枚ひいて覚えてもらい、覚えたらデックに戻してもらいます。そして4枚のAを裏向きにテーブルに並べて観客に1枚指定してもらいます。選ばれなかった3枚のAを表向きにすると、3枚とも「観客が覚えたカードのマーク」とは一致しません。つまり、観客が指定したAは、選んだカードのマークと一致しているはずです。実際にそれを確認しようとすると、そのカードは観客のカードと同じマークのAではなく、観客のカードそのものに変わっています。観客からの見た目にもシンプルですし、使う技法も難しいものはほとんど使いません。マジシャンがよく使う技法ですが、この技法は、観客には不自然な印象を与えてしまっているケースもあるように思います。しかし、この技法のもつ多少不自然さを感じさせる動きも、ジョビーの手順の流れであれば自然に映るはずです。技法の持つ短所をうまく消し、長所を最大限に活かした作品になっています。

当初、ラリー・ジェニングスの改案やマーチン・ナッシュの改案などを演じていたジョビーが、マジックを続けて30年程経過した時点で、このスマートな手順に落ち着いたという経緯があります。長い間実際に観客の反応を見ていたジョビーが辿り着いた境地です。(2019.11.23)