garamanのマジック研究室

Open Travelers

4枚のAを使います。1枚のAがテーブルに置かれ、残りの3枚をマジシャンが持っています。残りの3枚のうちの1枚を右手で覆い隠すように持ちますが、その掌には何も持っていないように見えます。マジシャンは見えなくなった1枚のカードを持ったまま、テーブルにあらかじめ置いてあったAに重ねます。その瞬間、見えなかったはずのカードが姿を現し、今、テーブル上には2枚のカードが重なっています。

このように1枚ずつ見えない移動を続け、最後にはテーブル上に4枚のAが集まります。


オープントラベラー

新版 ラリー・ジェニングスのカードマジック入門
p.139

ラリー・ジェニングス(Larry Jennings) の名作を加藤英夫氏が解説しています。プロ・アマ問わず、この作品に惚れ込んだ人は多いでしょう。その証拠に、様々な改案がテレビでも演じられていますし、アマチュアが演じた映像は数多くネット上で配信されています。この本で解説されているのは、ラリー・ジェニングスの原案です。アマチュア・マジシャンが見ると、ちょっと遅めな展開に感じるかもしれませんが、おそらくこのくらいのテンポが、観客には伝わりやすいのではないかと思います。色々な改案があるようですが、あまりスピードに拘ると、マジシャンによるマジシャンのためのマジックになってしまいます。

4ページにわたる解説は、文章だけでも充分に理解できるほどの内容ですが、イラストも9枚添えられています。(2012.05.27)

SOLO°

ジョン・ガスタフェロー カードマジック
p.82

ジョン・ガスタフェローによる奇抜な改案です。原案では、手のひらに何も持っていない状態を見せてから移動させますが、ガスタフェローの改案では、カードが手のひらに溶け込んでいる様子を見せてから移動させます。文章だけ読むとおかしな感じですが、観客には、今まさに消えかけているカードを見たという印象が残るのです。それが難しい技術もなくちょっとした準備だけでできます。カードを1枚ずつ透明にして移動させ、テーブルに置いた瞬間に見えるようになる、という現象は原案と同じです。それに加えて最後の1枚では透明になりかけた状態で移動させるのですから、作品全体の説得力は高まります。改案の見本とも言えるアイディアです。テーブルに置いた4枚のAをクリーンに見せられるような工夫も施されていて、最後までしっかりと考え抜かれた名手順です。

特殊なカードを1枚自作する必要がありますが、その苦労以上の効果がある作品です。(2015.07.19)

Open Travelers

Stars of Magic Vol.5
演技 : Title1/Chapter4
解説 : Title1/Chapter5

バーナード・ビリスの改案です。ジェニングスの原案よりも少しスピーディーになった印象を受けます。観客から見た現象は原案よりも少しスッキリしているのではないでしょうか。原案のコンセプトを変えずに、少しずつ改案されており、その分少し難易度が上がっているというのが特徴です。4枚目のカードが移動する前に、観客にカードを押さえてもらうことで、観客参加型にしているのも、ちょっとした工夫ですが効果的です。

難易度が若干高めになっているものの、観客からはスムーズな現象に見えるように工夫された構成になっています。パームした見えないカードをテーブルに置く時の、ちょっとした注意事項など、実践的なアドバイスも豊富です。(2018.09.17)

オープン・トラベラーズ

カードマジック大事典
p.227

ラリー・ジェニングスの原案です。新版 ラリー・ジェニングスのカードマジック入門の手順と基本的には同じです。カードマジック大事典の方が写真が豊富な分、説明がわかりやすいかもしれません。

原題として、Expert Card Mysteries(1969年) の Jennings' Open Travellers を挙げています。1969年当時の原案にあたる作品と思われる Open Travelers ですが、わざわざ「ジェニングスの〜」と前置きされているのは、おそらくエドワード・マルローが1962年に The New Phoenix に発表した同名の作品との混同を避けるためでしょう。マルローの方が先に同じテーマで発表しているにもかかわらず、ジェニングスの作品の方が原案と認識されているのは、それだけ多くのマジシャンたちに注目されたからでしょう。エクストラカードを2枚使うマルローの作品の方がよく作り込まれていますが、エクストラカード1枚に収めたジェニングスの作品の方が現実的で、マジシャンの興味を掻き立てたのかもしれません。(2023.07.30)

アルティメイト・バージョン

カードマジック大事典
p.230

著者の宮中桂煥氏の手順です。ポール・ハリス氏が「Las Vegas Close-up (1980)」に発表したオープン・トラベラーズの改案を参考にしたそうです。

1枚目の飛行の見せ方に特に感銘を受けたとのことで、そこは踏襲しつつ、クライマックスを加えています。原案の雰囲気はそのままですが、全体的に洗練されているような印象を受けます。見ている方にとっても現象が見やすくなっているのではないでしょうか。原案ではエクストラカードの処理のために残りのデックに触れてしまいますが、宮中氏の改案では残りのデックは使いません。自身のオリジナル・テクニックを使用してエクストラカードを処理するため、クライマックスまで一貫してクリーンな現象になっています。(2023.08.06)

Open Air Assembly

MALONE meets MARLO 3
演技 : Title1/Chapter22
解説 : Title1/Chapter23

エドワード・マルローの作品をビル・マローンが演じています。ジェニングスの作品と見た目の現象は同じですが、決定的に違うのはエクストラカードを使わないこと。エース4枚のみで同じ現象を実現しています。エクストラカードを使わない分テクニックが必要になりますが、さほど難しくないレベルに抑えています。この程度の難易度でエクストラカードを使わずに実現できるのは大きなメリットでしょう。ただし、難易度は低いながらも、手元に注目を集めている間に行いますので、若干勇気のいるテクニックではあります。好みの分かれるところでしょう。

全体を通してリズム良くスピーディーに進行できるのは、観客にとってわかりやすい現象に見えますので、そちらのメリットの方が大きいかもしれません。(2023.08.12)

Surrounded Open Travelers

MALONE meets MARLO 6
演技 : Title1/Chapter8
解説 : Title1/Chapter9

エドワード・マルローの作品をビル・マローンが演じています。見えないパームで移動させるというコンセプトはそのままです。4枚のエースというよりは、赤いエース2枚と黒いエース2枚ということに意識を向けさせることで、うまくトリックをカバーしています。エクストラカードを1枚利用していますが、エクストラを使用するタイミングとそれを処理するタイミングが適度にずらされているため、これもまたトリックをカバーする働きをしています。エクストラカードの処理の仕方自体も、見えないパームの動きに説得力を持たせるためのムーブにうまく隠れています。

好みは分かれると思いますが、よく考えられたクレバーな作品です。(2023.08.20)

4枚だけのエース
〜 Open Travelers 〜

カード・マジック宝石箱
p.65

著者の氣賀康夫氏はジェニングス本人からこの演技を見せてもらったそうです。その時の様子や、発案者が誰なのかということについて自身の考え方を示されています。

著者は原作に欠点がなければそのままにしておく方ですが、ジェニングスの Open Travelers についてはひとつ欠点を見つけてしまったようです。肝心なところでテクニックを使うのがどうも露骨に見えるとのことで、その欠点をカバーするための改案がこの作品です。実際いくつかの簡単な技法が使われるものの、全てが統一的に違和感なく見えるように配慮されています。

最後に4枚のエースを並べるとき、演技の冒頭と同じく赤黒が交互になるように並べますが、そのための工夫として配る順番を変えています。左から順番に並べないことに違和感を感じる方は、一度トップチェンジを入れるか、1枚目だけセカンドディールを取り入れれば、左から順番に配っても赤黒交互になります。(2023.09.10)