garamanのマジック研究室

Stop Trick

マジシャンあるいは観客が、カードを1枚ずつテーブルに配っていき、観客がストップと言ったら配るのを止めます。この状況で、ストップをかけられた箇所のカードが予め予言されていたカードと一致している、などという事が可能でしょうか?

このダイレクトでインパクトの強い現象は、多くのマジシャンの開発意欲を掻き立てるらしく、今までに数多くの作品が作られてきました。


ストップ・トリック

ロベルト・ジョビーのカード・カレッジ4
p.130

数学者のマーチン・ガードナーによるストップ・トリック作品です。テクニックに頼った方向には流れず、数理的な解決法を選んでいます。さすがは数学者であり懐疑主義者のガードナーといったところでしょうか。

手順の始めにいくつかのテクニックを用いてセットアップを行ないますが、これは観客の前でやる自信が無ければ、事前に準備しておく事もできます。セットアップ後はテクニック不要です。メンタルマジック的な印象を与える作品ですので、指先の技術よりも話術に注意を払いたいところです。まずは、観客の手によってデックを2つに分けます。片方のパイルの中から1枚のカードを選んで覚えてもらいます。このカードは元のパイルに戻します。トップから何枚目に覚えたカードがあるのかは、もう1つのパイルを使って突き止めます。もう一方のパイルを観客が持ち、1枚ずつテーブルに配っていき、好きなところで止めます。止めたところのカードの数値を使います。元のパイルのトップから、先ほどの数値分だけ配っていくと、そこからは覚えたカードが現れます。

2ページに2枚のイラストで解説されています。解説の最後には、リシャール・ボルメルによる更なる改案が記されており、こちらもガードナーの流れを汲んだ素晴らしい解決法です。なお、初版では解説文に誤りがあります。始めのセットアップで6枚目から12枚目のカードをコントロールしているという記述がありますが、正しくは6枚目から20枚目までがコントロールされることになります。(2010.02.06)

アネマンの「ストップ!」

あそびの冒険 全5巻
「4 ミラクル・トランプ・マジック」p.143

セオドア・アンネマンの作品、その名も STOP!。1932年、ストレンジ・シークレットで発表されたそうです。

観客に覚えてもらったカードをデックに戻して混ぜますが、この時点でマジシャンは何が選ばれたかを知りません。その後1つの数字を「心の中で」決めてもらいます。トップからその数字の枚数目に、覚えたカードが現れると言うのです。この時点でマジシャンは、何枚目に何のカードを出せばよいかを知りようもないので、トリックの入り込む余地がありません。マジシャンはトップから順番に1枚ずつカードをめくっていきますが、その度に「あなたが決めた数字は1でしたか?」と聞いていきます。「いいえ」と応えたときのカードをめくると確かに違うカードです。「2でしたか?」「3でしたか?」と聞いていくうちに、覚えた枚数目のところにたどり着き、観客が「はい」と答えた時のカードが、間違いなく観客の覚えたカードなのです。

現象の完璧さは群を抜いています。但し、松田氏も書かれているように「非実用的」です。極端に技法に頼った作品なのでマジシャンの負担が大きすぎます。でもその発想が面白い。3ページほどの解説で、イラストはありませんが、手順は単純ですので理解に支障はないでしょう。(2010.02.13)

ライプチッヒのストップトリック

松田道弘のオリジナル・カードマジック
p.189

このトリックを得意にしていたライプチッヒは、ある技法を使って現象を起こしていたようですが、再度リクエストされることを見越してか、特殊カードを使った手順も用意していたそうです。この特殊カードを使った方法を少し変更したものが、この本で解説されている松田氏の作品です。

この作品では、観客が覚えたカードをデックに戻したら、デックをテーブルに置きます。これだけでも印象は随分と変わってきます。テーブルに置いた状態では殆どの技法が使えないわけですから。その後、テーブルのデックから一枚ずつカードを取り上げ、マジシャンの左手に重ねていきます。観客がストップをかけたところのカードをめくると、そこには観客が始めに選んだカードがあるのです。

現象の完璧さは群を抜いています。但し、松田氏も書かれているように「非実用的」です。極端に技法に頼った作品なのでマジシャンの負担が大きすぎます。でもその発想が面白い。3ページほどの解説で、イラストはありませんが、手順は単純ですので理解に支障はないでしょう。(2010.02.13)プロブレムを解決に導く経路は実に直線的です。そのためインパクトは絶大です。時には技法を使い、別の時には特殊カードを利用して同じ現象を起こす。タネが気になって仕方ない人でも、容易に見破る事はできないでしょう。解説は箇条書きで15ステップ。1ページそこそこの解説でイラストもありませんが、見落とすには惜しい素晴らしい作品です。(2010.02.20)

いつでもどうぞ
〜 Search and Stop 〜

ラリー・ジェニングス カードマジック
p.123

ラリー・ジェニングスによる、ちょっと変わったストップ・トリックです。観客に1枚のカードを選んでもらい、デックに戻した後、そのデックをマジシャンの上着の右内ポケットに入れます。マジシャンは右内ポケットから1枚ずつカードを取り出していきますが、その何枚目でストップをかけるのかを【観客が】【予め】【心の中で】決めておきます。マジシャンは右ポケットからカードを取り出すと観客に裏向きのまま提示します。観客がストップをかけなければ、そのカードは左内ポケットにしまわれます。これを繰り返し、観客がストップと声をかけたときに提示されているカードが、始めに選ばれたカードです。もちろん、他のカードを全て改めても同じカードはありません。

4ページほどでサラッと解説されていますが、個性的な作品ですし、マジシャンの手の中で起こる現象ではないので、観客にも飽きが来なくて良いでしょう。他の作品と組み合わせて演じるのに重宝しそうな作品です。さほど難しい技法は使いませんが、少なからず勇気の必要な作品ではあります。(2010.08.21)

ストップカード

新版 ラリー・ジェニングスのカードマジック入門
p.66

グライドの解説の後に、それを応用したマジックとして解説されているヘンリー・クライストの作品です。グライドの応用と言えるかどうかは解釈の分かれるところだとは思いますが、それはともかく、作品は個性的です。デックのトップカードカードから順に、2枚目・3枚目、と次々に表向きにしていき、途中でストップをかけてもらうと、最初に選んだ観客のカードが現れるという現象です。独特な見せかたではありますが、実用的です。

解説は1ページ、イラストも1枚ですが、解説に不足はありません。シンプルな現象をシンプルに演じる事がこの作品の魅力です。(2010.09.05)

Stop!

ロベルト・ジョビーのカード・カレッジ5
p.216

ロベルト・ジョビーのアイディアです。基本になっているのは「Expert Card Technique」に掲載されている手順です。ノーマルデックで行うもので、指先のテクニックとしてはさほど高度なものは使用しません。ただし、心理的には難しさがあります。観客に合わせて手順が多少変わりますので、初めからそういう手順であるかのように、自然に演じる力が必要です。経験豊富なマジシャンにとっては、それこそ面白いところでしょう。

この解説で注目するべきところは、心理的な誘導部分にあります。言葉や仕草で、自然に相手を誘導するための解説が豊富です。また、それでもうまく誘導できなかった時に備えたアウトもしっかりと解説されています。実践的なアドバイスです。(2019.01.20)